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【メディア】新聞デジタル版は、キャズムを超えられる、のか

 「キャズム」というマーケティング用語があります。2000年頃でしょうか、ウェブ界隈では真面目なものからそうでないものまで、よく取り上げられました。「高校生がキャズムに転落」なんてネタもありました。

 ユーザーや消費者の行動様式に変化を迫るような、主にIT製品やサービスが普及していく過程では、感度が強く新しい物好きのマニア(イノベーター、アーリーアダプター)と、市場の主要な消費者であるマジョリティの間にキャズム(深い溝)があり、そこを超えられない製品・サービスは市場から退場する-ざっくり言うとそんな理論です。古くはPC-98シリーズ、ベータ方式ビデオ、レーザーディスク、ドリームキャスト、HD-DVDなどが挙げられるようです。これらはスペックやコストパフォーマンスに優れ一部のマニアから強い支持を集めたものの、マジョリティには受け入れられず市場から退場していきました。

情報システム用語事典:キャズム(きゃずむ) - ITmedia エンタープライズ

新製品・新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場への移行を阻害する深い溝のこと。マーケティング・コンサルタントのジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)の著書『Crossing the chasm』(1991年)に登場するキーワードで、ハイテク市場におけるマーケティング理論である「キャズム理論」は大いに注目を集めた。

画像をお借りしました。

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アーリーアダプター市場とアーリーマジョリティ市場の間の“深い溝”(出所:『キャズム――ハイテクをブレイクさせる「超」マーケティング理論』)

 さて、新聞の発行部数が右肩下がりで減少し続ける現在、各社は電子・デジタル版に活路を見いだそうとしています。デジタル版で先行していると言われているのが朝日と日経のようです。朝日の場合、デジタル版は朝夕刊1か月約4000円にプラス1000円、デジタル版のみの場合は3800円。日経は、朝夕刊1か月約4500円にプラス1000円。デジタル版のみの場合は4200円、ほかに産業新聞などのオプションがあります。両社とも、記事閲覧数などに制限がある無料版もあります。デジタル版のみが割高なのは、いまでも紙媒体が主力商品であるからでしょう。

 社によってデジタル版の位置づけや戦略が異なり(紙の新聞は減るばかり Web展開で模索が続く大手新聞社は生き残れるのか | 東京IT新聞)、一概に比較できない上、デジタル版の契約者数はあまり公表されていません。公表されているのは朝日と日経のみでサンプルは限られますが、それでも、簡単に新聞のデジタル版をキャズム理論に当てはめるとどうなるでしょう。

 

発行部数
(朝刊)

電子版会員数
(無料)

 

有料会員数

 

読売

9,868,516

 

 

 

 

朝日

7,543,181

1,000,000

13.26%

100,000

1.33%

毎日

3,350,366

 

 

 

 

日経

2,776,119

2,129,252

76.70%

335,000

12.07%

産経

1,617,525

 

 

 

 

掲載エリアと販売部数:メディアデータ

日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期・普及率」2013年7月~12月

日経電子版の価格戦略を考えてみた

などを参考 

 デジタル版の料金体系や消費者動向から、紙媒体を購読していない消費者がデジタル版のみを契約するケースは、あっても非常に少ないと考えられます。無料版の場合、紙媒体は購読していないケースも相当ありそうで、有料になれば契約しない消費者がほとんどでしょう。ですから、無料版は考慮から外し、各社の市場を紙媒体の発行部数と考えます。メディア環境の変化と少子化・人口減により、紙媒体の発行部数は今後も減少することはあっても増えることはないでしょう。

 朝日の場合、有料版はまだイノベーターにしかアプローチできていません。日経の有料版は、いよいよキャズムを超えられるかどうかのところにあるようです。

 この種のサービスは各社とも、スタート時に一気に契約者(無料版を含む)を獲得するものの、その後、頭打ちになるようです。例えば、

独走「日経電子版」も伸び悩み:FACTA online

独走「日経電子版」も伸び悩み 「電子」への緩やかな移行を図るも、「紙」が想定以上に減り始めるなど課題山積。 FACTA2014年3月号

 日本の新聞社の有料オンラインサービスの中で唯一の成功例といわれる「日経電子版」だが、創刊4年目に入って伸び悩みが目立ってきた。2010年3月のスタートから3年目までは年間約10万人ずつ順調に読者を増やしてきたが、4年目に入って伸びがスローダウンし、今年1月現在では33万5千人にとどまっている。

だそうです。

 恐らく、特に日経のような経済紙の場合、仕事の必要上購読する層が相当あって、そういう消費者は、新聞のデジタル版にも感度か高いのでしょう。タブレットやスマホも普及初期から使い始めたのではないでしょうか。そういった層は、デジタル版のサービス開始時にすぐに利用を始めますが、そうでない層はどれだけ時間が経っても契約には至らない、のではないでしょうか。それが上記FACTA記事にあるような頭打ちの根本原因のように思えます。

 ウェブであらゆる媒体のニュース記事を無料で読むことができる現在、各社単独のパッケージ商品であるデジタル新聞は、結局キャズムに転落する運命ではないかと思われます。キャズム理論にあるよう<アーリーアダプターとアーリーマジョリティでは要求が異なっており、キャズムを超えてメインストリーム市場に移行するためには自社製品の普及段階に応じて、マーケティングアプローチを変えていくことが必要>ですが、新聞やニュースに対するアーリーマジョリティのニーズというのは、無料のニュースアグリゲーターで満たされていると見られるからです。

 ウェブ草創期、音楽配信のころからウェブの本質はコンテンツのばら売り、と言われてきました。日常的にニュースを読む層でも、そのマジョリティは無料のスマートニュースやグノシーで十分、なのではないかと思われます。この件についてはまた。

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